屋上に小さな公園のあるラブホテルを取り巻く人々の、孤独と再生を映し出す感動ファンタジー。ラブホテルを経営する初老女性との触れ合いから、登場するさまざまな年代の女性たちが心に抱く傷を癒されていく。熊坂出監督はこの創意に満ちた長編デビュー作で、2008年のベルリン国際映画祭で最優秀新人作品賞を受賞。ラブホテルのオーナーを演じるシンガーソングライターのりりィが、独特の存在感で観る者を惹(ひ)き付ける。
バックパックを背負い、髪を銀色に染めた少女、美香(梶原ひかり)はポラロイドカメラで目につくものを撮影しながら街を彷徨っていた。見知らぬ街角に建つ少しくたびれたラブホテルのそばを通りかかると、彼女は老人や子供たちが次々とホテルに入っていく不思議な光景に遭遇、彼らの後に続いてラブホテルに入っていく。驚いたことにその屋上で彼女が目にしたのは、滑り台やブランコ、そしてベンチ。ラブホテルの屋上は人々が思い思いに自由な時間を過ごす公園だった。そこで出会ったのは、とっつきにくく無愛想な初老のラブホテルのオーナーの艶子(りりィ)。艶子は、家出をして行き場のない美香を見かねてその夜の寝床を提供。美香は艶子に何かと生意気な口をきくが、艶子は彼女が心に深い孤独を抱えていることを見抜く。艶子は毎朝、ホテルの前の道を丁寧に掃くのが日課。そのたびに、ウォーキングしながら通り過ぎる若い女性と「おはようございます」と挨拶を交わす。そんな朝が16年間続いていた。だがある日突然、月(ちはる)と名乗るその女性が「ここで働かせてください」と艶子に頼んでくる。月にもまた何か人に言えない事情がありそうだった。ラブホテルの常連マリカ(神農幸)は、金属製のアタッシュケースを手に毎回別の男とホテルにやってくる変わった女だった。彼女はフロントで艶子に威張り散らしていたが、偶然にも艶子の“ある秘密”を知ってしまう。艶子の秘密と引換えに自分の“秘密”を艶子に伝えようとするマリカ。それぞれの胸の内に深い孤独と絶望感を秘めた女たちと、それらを優しく包み込む艶子の存在。互いの心が鏡のように共鳴しあい、やがてラブホテルの屋上の小さな公園から人生を肯定する喜びが溢れ出すのだった……。
スタッフ
- 監督・脚本: 熊坂出
- 製作: 矢内廣 / 加藤嘉一 / 武内英人 / 高野力 / 林瑞峰 / 千葉龍平
- プロデューサー: 天野真弓
- 音楽: 日比谷カタン
キャスト
- りりィ
- 梶原ひかり
- ちはる
- 神農幸
- 越智星斗
- 玉野力
- 吉野憲輝
- 高木優希
- 津田寛治
- 光石研
- 他
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