息もできない
スタッフ
監督・脚本・製作: ヤン・イクチュン 編集: イ・ヨンジュン 撮影: ユン・チョンホ 美術: ホン・ジ 録音: ヤン・ヒョンチョル 音楽: インビジブル・フィッシュ
キャスト
ヤン・イクチュン キム・コッビ イ・ファン
発売日: 2010-12-03
解説
韓国で俳優として活躍してきたヤン・イクチュンが製作、脚本、主演など五役を兼任した監督デビュー作。東京フィルメックスやロッテルダム国際映画祭を始め、世界中で25以上もの映画賞を受賞するなど、高い評価を得た。複雑な家庭環境を背負った粗暴な男と一人の女子高生が出会い、心を通わせていく姿を鮮烈なタッチで綴る
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ストーリー
手加減のない仕事振りで恐れられている取立て屋のサンフン(ヤン・イクチュン)。借金回収だけではなく、ストライキの妨害や屋台の強制撤去などでも容赦のない男だったが、甥のヒョンイン(キム・ヒス)をかわいがる一面も持っていた。ある日、サンフンは偶然、女子高生のヨニ(キム・コッピ)と出会う。殴り合いから始まった出会いだったが、2人はお互いに通じるものを感じる。彼らはそれぞれ、親との関係に問題を抱えていた。幼い頃、暴力的な父に母と妹を殺された過去を持つサンフン。刑務所から出所した父のもとを訪れると、一言もなく殴りつける。一方のヨニは、精神を病み、働けない父を抱えてい... 手加減のない仕事振りで恐れられている取立て屋のサンフン(ヤン・イクチュン)。借金回収だけではなく、ストライキの妨害や屋台の強制撤去などでも容赦のない男だったが、甥のヒョンイン(キム・ヒス)をかわいがる一面も持っていた。ある日、サンフンは偶然、女子高生のヨニ(キム・コッピ)と出会う。殴り合いから始まった出会いだったが、2人はお互いに通じるものを感じる。彼らはそれぞれ、親との関係に問題を抱えていた。幼い頃、暴力的な父に母と妹を殺された過去を持つサンフン。刑務所から出所した父のもとを訪れると、一言もなく殴りつける。一方のヨニは、精神を病み、働けない父を抱えていた。父の代わりに働いていた母は、屋台の強制撤去に遭い、その最中に死亡。弟のヨンジェ(イ・ファン)は高校にも行かず、荒れた生活を送っていた。粗野なサンフンと、それに臆することなく彼をからかうヨニ。相反する2人を似た境遇が結び付ける。しばらくして、ヨンジェがサンフンのもとで仕事をすることになる。だが、ヨニの弟だと知らないサンフンは、おどおどしたヨンジェを “腰抜け”と罵倒する。やがて彼は、姉がヒョンインと父を何度も会わせていた事実を知り、苛立ちを募らせる。仕事振りはより激しくなり、ヨンジェへの態度も一層厳しくなる。それにより、ヨンジェの家庭内暴力がエスカレート。泣き叫ぶヨニと、包丁を握り締める父親…。一方、憎しみを募らせたサンフンだったが、自殺を図った父を発見、病院に担ぎ込む。自分の輸血で父が一命を取り留めると、サンフンはヨニを呼び出し、2人は川岸で言葉もなく一緒に涙を流すのだった。ヒョンインの言葉で、父親を殴る自分の姿が、自分が嫌った父と同じであることに気付くサンフン。自分を変えようと、取り立て屋から足を洗うことを決意する。そして最後の仕事にはヨンジェが同行。これを最後に、サンフンは新しい人生を歩むはずだったが
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世界が泣いた。世界が震えた。
暴力は不毛、かつその連鎖を止めることの難しさを訴えてくる映画。
暴力を捨てた刹那、今までの何倍にもなってその暴力以上の過酷な運命が自分に降りかかってくる。
そこまでのプロットが秀逸で、みるみる引き込まれ、考えさせられた。これは傑作である。
私は韓国映画はあまり見ないのだが、この映画にはやられた。
ヤン・イクチュンは製作・脚本・監督・主演・編集の5役を一人でやってのけた。
彼は、創造の源は自らの境遇からくる「怒り」だという。
その言葉通り、本作には個人、家族、社会などへ向けた激しい怒りが全編にわたって
貫かれている。「怒り」と「愛」、二律背反的な感情がコインの裏表の関係のように
描かれている様は人間への限りない賛歌のように受けとれた。
本作鑑賞後、彼の才能を頼もしくも恐ろしく感じた。
国際映画祭、映画賞で25以上もの賞に輝いた魂の映画。
そして、主人公はもちろん出てくるキャラクターたちは、みな人を殴る。(苦笑)
慈悲や惻隠といった言葉とは無縁の、ただただ一方的で感情任せの暴力がそこにはあります。でも、サンフンの暴力は不器用な彼のコミュニケーションに他ならず、その性格が彼の運命を決定づける。
暴力描写に目が行きがちですが、根底に流れるのは「家族」という逃れられないしがらみ。その中で生きてきた主人公サンフンと女子高生ヨニ。サンフンは、父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生き、ヨニは傷ついた心を隠し勝気に生きる。このふたりの純愛よりも切ない魂の求めあいを、息苦しいまでにパワフルに描きます。それにしてもなんて悲惨なふたりの境遇だ...。
もちろん、そんなふたりにロマンスの花開く展開などあろう筈がない。でも、その決して表だっては見えてこない気持ちこそ本物の愛情である事に気付かされます。
予感はしつつも、突然のクライマックスからラスト。そして、希望と哀しみを感じさせるエピローグへと続く...。
ヤン・イクチュン、これが長編映画監督デビュー作なんて凄すぎる!! 脚本・演技・映像、全てに無駄が無い完成度の高さです。
何はともあれ、本作を観て重い気持ちになることは間違いありません。ですから、映画ファンなら必見の映画ですが、万人にはオススメできない作品でもあります。