キャタピラー
一銭五厘の赤紙1枚で召集される男たち。シゲ子の夫・久蔵も盛大に見送られ、勇ましく戦場へと出征していった。しかしシゲ子の元に帰ってきた久蔵は、顔面が焼けただれ、四肢を失った無残な姿であった。村中から奇異の眼を向けられながらも、多くの勲章を...
予告編
ワーナー・マイカル・シネマズ劇場案内
解説
静かな田園風景の中で、1組の夫婦を通して戦争の愚かさと悲しみを描く「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」の若松孝二監督作。手足を失って帰還した夫を看病する妻を「人間失格」の寺島しのぶが演じ、本作で第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞した。そのほかの出演者は「ランニング・オン・エンプティ」の大西信満、「あふれる熱い涙」の吉澤健、「ララピポ」の粕谷佳五など
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ストーリー
一銭五厘の赤紙1枚で男たちが召集されていく中、黒川シゲ子(寺島しのぶ)の夫・久蔵(大西信満)も盛大に見送られ、勇ましく戦場へと出征していった。だが、シゲ子のもとに帰ってきた久蔵は、顔面が焼けただれ、四肢を失った無残な姿であった。村中から奇異の眼を向けられながらも、多くの勲章を胸に“生ける軍神”と祀り上げられる久蔵。四肢を失っても衰えることのない久蔵の旺盛な食欲と性欲に、シゲ子は戸惑いながらも軍神の妻として自らを奮い立たせ、久蔵に尽くすのだった。だが、自らを讃えた新聞記事や勲章を誇りにしている久蔵の姿に、シゲ子は空虚なものを感じ始める。やがて、久蔵の食欲と... 一銭五厘の赤紙1枚で男たちが召集されていく中、黒川シゲ子(寺島しのぶ)の夫・久蔵(大西信満)も盛大に見送られ、勇ましく戦場へと出征していった。だが、シゲ子のもとに帰ってきた久蔵は、顔面が焼けただれ、四肢を失った無残な姿であった。村中から奇異の眼を向けられながらも、多くの勲章を胸に“生ける軍神”と祀り上げられる久蔵。四肢を失っても衰えることのない久蔵の旺盛な食欲と性欲に、シゲ子は戸惑いながらも軍神の妻として自らを奮い立たせ、久蔵に尽くすのだった。だが、自らを讃えた新聞記事や勲章を誇りにしている久蔵の姿に、シゲ子は空虚なものを感じ始める。やがて、久蔵の食欲と性欲を満たすことの繰り返しの日々の悲しみから逃れるかのように、シゲ子は“軍神の妻”としての自分を誇示する振る舞いをみせるようになっていく。そんな折、日本の輝かしい勝利ばかりを報道するニュースの裏で、東京大空襲、米軍沖縄上陸と敗戦の影は着実に迫ってきていた。久蔵の脳裏に、忘れかけていた戦場での風景が蘇る。燃え盛る炎に包まれる中国の大平原。逃げ惑う女たちを犯し、銃剣で突き刺し殺す日本兵たち。戦場で人間としての理性を失い、蛮行の数々を繰り返してきた自分の過ちに苦しめられる久蔵。混乱していく久蔵の姿に、シゲ子はお国のために命を捧げ尽くすことの意味を見失っていく。1945年8月6日広島、9日長崎原爆投下。そして15日正午、天皇の玉音放送が流れる中、久蔵、シゲ子、それぞれの敗戦を迎えるのだった
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【公開日】 2010年8月14日
【製作年】 2010年
【製作国】 日本
【映倫情報】 R15+
【上映時間】 84分
【配給】 若松プロダクション / スコーレ株式会社
【製作・監】 若松孝二
【脚本】 黒沢久子 / 出口出
【ラインプロデ ューサー】 尾宗子
【撮影】 辻智彦 / 戸田義久
【撮影助手】 高橋拓 / 脇坂美緒
【音楽プロデューサー】 高護
【音楽】 サリー久保田 / 岡田ユミ
【演奏】 中本文 / MITUKO / 田中麻衣
【録音】 久保田幸雄
【美術】 野沢博実
【助監督】 福士織絵 / 花木英里 / 小田総一郎 / 須田大介
【出演】 寺島しのぶ 大西信満 吉澤健 粕谷佳五 増田恵美 河原さぶ 石川真希 飯島大介 安部魔凛碧 寺田万里 柴やすよ 椋田涼 種子 折笠尚子 小林三四郎 金子貴明 地曵豪 ARATA 篠原勝之 小倉一郎
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戦争に翻弄されるひと組の夫婦
ベルリン国際映画祭銀熊賞
乱歩の「芋虫」を下敷きにした作品と聞いていたが、主題が大きく異なるものと思った。
感じた主題は、反戦メッセージでもなく、夫婦の歪んでいく愛でもなく、
キューブラ・ロスの「死の受容」だった。
この場合の「死」とは、夫の死ではなく、夫婦の関係性の死である。
第一段階 「否認」
あんなの久蔵さんじゃない! イヤ!と叫ぶ妻。
第二段階 「怒り」
勲章だけが拠り所の、動物のような夫の世話をする、やり場のない妻の静かな怒り。
第三段階 「取引」
妻は、夫に軍服を着せ、勲章をつけさせ、連れ歩く。
妻は、夫が外出を嫌がると、自分が勲章をつけ人前に現れる。
軍神さまとみなに拝まれ、妻は優越感を得ることで、妻は精神の安定を得る。
本来の「取引」とは異なるが、破滅していく生活を食い止めるための代償行為である。
第四段階 「抑うつ」
これは夫に現れる。
過去の悪行の記憶にさいなまれ、性的にも不能となり、錯乱状態に陥る。
妻はここではじめて、「芋虫」と夫を呼び、ヒステリックに笑い続ける。
勲章を、額縁にいれた夫の新聞記事をたたき落とす。
第五段階 「受容」
終戦を迎えても、夫が軍神ではなく、芋虫であると認め、
建前や大義名分としての夫婦の関係が死んだことを受入れた妻の生活は変わらない。
妻は再生を果たした。
夫は同じく事実を認め、不自由な体で池に身を投げ、水死する。
原作も本作もどちらも深い主題を抱えており、どちらも素晴らしい作品と思うが、
乱歩作品の耽美的、退廃的なイメージを求めて本作を見ると、やや物足りないだろう。
寺島しのぶが見事に表現した、死の受容過程をなぞると、別の感慨が浮かぶ作品である。
エンディングでは、元ちとせの強烈すぎる歌声が流れるが、
寺島しのぶの迫力は一歩もひけをとらない、すさまじいものだった。